どこで闘うのか

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私がイギリスにいた時も、ビザの延長申請が実にわずらわしかったことを思い出す。最低これだけの期間は在英していなくてはならないと決まっている大学院生で、イギリス政府から数年にわたる補助金がもらえることがわかっていても、何故かビザの延長は一年しか認められず、毎年毎年延長申請をしなくてはならなかった。で、地方の片田舎にいたせいも勿論あるのだけれども、申請手続きにわざわざ数時間も電車にゆられて出かけなくてはならない。見慣れない街の見慣れない駅、しかものどかな田舎町から出てきた目にはなにやらえらいこと物騒そうな(<ただの思い込み)駅に降り立って、少しどきどきしながら、さらにその駅から数十分もバスに揺られていかなくてはならない。留学生だぞ!高等教育ビジネスで稼いでいる国に*1、どうしてこんな嫌がらせを受けなくちゃならないんだ!*2と、つくづく腹が立ったものだった。「自分はオフィシャルに歓迎されない外国人なのだな」ということを、イミグレーションオフィスにいくときほど思い知らされることは、あまり、ない。
で、事態はもちろん日本でも同じ。とにかく不便なところに、とにかく人目につきにくい風体で、入国管理局出張所は存在していた。中に入ると、留学生などがまだ比較的少ないのではないかと思われるこの時期の平日昼間で、50人待ち。そして、遅々として進まない。働いている人の手が遅いのではなくて、待合室の椅子が足りないほどにあふれいている申請者に対して、圧倒的にスタッフが不足しているようなのだ。心身ともに頑強なわたくしのような人間は、まあ、多少いらいらする程度で本でも読んでいればすむ話だけれども、幼児を連れてこなくてはならない人、高齢の人などにはつらいだろう。[ ]
さらに、イギリスでもイミグレーションオフィスで担当官がほぼナチュラルスピードの英語を話すというのはどうなのよ、少しはゆっくり話してよ、そもそもあんたの英語なまってるんだし!と微妙に憤慨したものだったのだけれど、日本でも担当官の日本語はもう少しゆっくりにならないものだろうか。特に、「これこれの人は今ここに並んでください」というようなアナウンスを普通の窓口の調子でやられたのでは、ついていけない人もいるだろうと思う。ビザを申請する人がみんな日本語のナチュラルスピードに慣れているわけでもないだろうし、もうちょっとだけゆっくりはっきり話してくれないと、必要なアナウンスを聞き逃す人もいるのではないかしらと、他人ゴトながら多少心配になったり。
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ところが、これが配偶者ビザになると、状況は途端に本当に楽になる。最初は一年だけれどもうまく行けばじきに三年のビザに切り替えられるし、結婚して三年以上経過し、日本に一年以上引き続いて在留していれば、早くも永住権の申請ができる。
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結局のところ、[ ]同性婚なりパートナーシップ法なりの成立を要求して運動をしているわけですらないし。こんな受動的な地味な抵抗をするために、あるいは、とりあえずわたくしのこういう分野での研究者としてのインテグリティのため(要するに見栄ですわね)に、[ ]
何かわたくしは戦う場所を、あるいは戦い方を、大きく間違えているのかもしれない。[ ]でも、わたしは間違えているのかしらと自問自答しながら、同性の恋人と公然と生活を共にしてきたカップルがいたり、女性の少ない職場で地道に職場のジェンダー意識の向上に努めてきた女性達がいたり、あえて一人で子供を育てようとしたシングル・ペアレントがいたり、そういうことを通じて、少しずつ何かが変わってきたこともまた事実であるような気もする。とりあえず、もう少しやってみよう。[ ]ちょっとアタマを下げてやり過ごせば、また調子の良い日も来るかもしれないんだし<根拠なき楽観論。

*1:イギリスでは留学生は本国・EU学生の倍以上の授業料を払わされる。しかも分野にもよるんだろうけれども、奨学金がやたら少ない

*2:自国には同等の高等教育を受けさせる環境がなかったから。涙