その発言がどのような行為となって誰を脅かすのか:イラン人青年強制送還をめぐって

[追記]

ペガーさんの時に中心となって動いていた、イタリアの団体EveryOneがこの件で動き出すようで、プレスリリースなどが出ているそうです。デルタGに最新情報が載っています。是非ご参照ください。

[追記2]

tnfukのnofrillsさんが、オンラインの署名サイトの文面を日本語にして下さいました。本当にどうもありがとうございます。請願の文面を見ないと署名をしたいかどうかの判断はできない、という方は、こちらから御確認ください。

[追記3]

RyOTAさんのところで示してくださっていた先に、とりあえずメールを送りました。下に例として挙げておきます。

メールフォーム:http://www.minbuza.nl/en/contact,reactieformulier___visum_en_legalisatie.html
(住所や電話番号の記入は任意。*のついた欄、名前・メールアドレス・メッセージは記入する)


nofrillsさんも仰っているダブリン協定との兼ね合いがわたくしもわかっていないのですけれども、ある意味で「どう処理するか」は専門家に任せるとして(いい加減すぎ)、「この方向で処理して欲しい」ということだけでも伝えた方がいいかと思って、その方向です。

ジョグジャカルタのあたりはRyOTAさんの文面を拝借しつつ、EU基本権憲章などについても触れてみました(過去にイラン人送還にあたってHRWがそこを指摘しているので)。

しかしこの場合、英国に送還された後でもう一度英国のHome Officeに訴えかけるという方向しかない、ということなのかとも思います。


Division of Aliens, Visas the Movement of Persons, Migration and Alien Affairs Department
Ministry of Foreign Affairs of the Netherlands

Dear Sir or Madam,

I am writing to petition the Netherlands government to reconsider Mehdi Kazemi's case and not send him back to the UK, whose Home Office has denied him the permission to stay there and is likely to deport him to Iran.

Mehdi Kazemi is an Iranian national who was sent to UK for study in 2005. He was planning to return home after his study, but learned from his father in Tehran in 2006 that his same sex partner in Tehran had been executed for his sexual orientation. Before the execution, the partner gave Mehdi's information to the Iranian authorities.

Under the circumstances, deportation to the UK and then on to Iran would imply a serious threat to Mehdi's life.

I believe that the European Convention on Human Rights prohibits the Netherlands from deporting persons to countries where they face the risk of the death penalty, torture or other inhuman or degrading treatment or punishment (Article 19). The Convention against Torture and Other Cruel, Inhuman or Degrading Treatment or Punishment, to which the Netherlands is a party to, also states that no states shall "expel, return ("refouler") or extradite a person to another State where there are substantial grounds for believing that he would be in danger of being subjected to torture" (Article 3).

Even though the Netherlands government is not sending Mehdi back to Iran but to the UK, your government will still contribute to the same result, for the UK government has already decided to return him to Iran.

I would also like to remind you of the Yogyakarta Principles on the Application of International Human Rights Law in relation to Sexual Orientation and Gender Identity, which ensures the right to seek asylum (Principle 23). On November 7th, 2007, when the conference of the launch of Yogyakarta Principles was held in UN headquarters, the President of the EU Parliament sent a letter of support to this conference.

I sincerely hope that the Netherlands government fulfills the moral and legal obligations and lives up to its international reputation as one of the leading countries in the protection of human rights and diversities.

Sincerely,


[lgbtq] その発言がどのような行為となって誰を脅かすのか:イラン人青年強制送還をめぐって

二つ下のエントリについて、id:RyOTAさんがフォローアップをして下さいました。ありがとうございます。詳しい状況、オランダ外務省宛のメール例文など、現時点で考えうる限りの情報を載せて下さっていますので、みなさまそちらをご覧になった上で、必要だと思われる方は必要だと思われるアクションをとって下さい。

RyOTAさんも書いていらっしゃるように、この件については情報が圧倒的に不足している状態なので、詳しいことが良くわかりません。たとえば、以前にあったペガーさんの強制送還反対の時にはかなり広くあちらこちらに情報が出ていたのとくらべて、今回の情報源はほとんどUK Gay NEWSくらいで、他に広まっていないように思います。

ちなみに、今更とは思いますが、ペガーさん強制送還反対をめぐる日本語でのとても丁寧かつわかりやすい解説が、nofrillsさんのtnfukから、こちらこちらの記事。英国/イランという点では類似点も多いので、未読の方は是非。

ただし、今回動きが小さいように見えるのは、たまたま身近に動いてくれる人/団体がいなかったということかもしれませんし、現在オランダで勾留されているわけなので、オランダ語での情報を探せればもっと色々と見つかるのかもしれません。ペガーさんの件も、大きいニュースサイトで取り上げて一気に動きが高まったということもあるようです。もう少し情報を探し続けたいと思います。

さて、ここからは直接アクションと関係のあることではありません。ちょっとだけ背景説明と、そして感想文です。

上でも書いたnofrillさんのエントリ、「難民申請却下でイランに送還されそうなペガーさんの件、説明(1)」で、「ペガーさんの難民申請が認められなかった理由は何か」というセクション、さらに、「難民申請却下でイランに送還されそうなペガーさんの件、説明(2)」に注目していただきたいのですが、ペガーさんの件のあった時点でのイギリスHome Officeの方向性としては、

「イランで同性愛だからといって即迫害されるというのは事実として認められないから、『私は同性愛者なのでイランでは身の安全が保障されません』と難民申請してくるケースでは、慎重に対処されたい」(tnfukより)


ということであったようです。

で、この時の請願署名の本文では

Other European countries (including Germany and Holland) have a moratorium on deporting gay people back to Iran.
(ドイツやオランダを含む)他のヨーッロッパ諸国では、ゲイの人々のイランへの送還の執行を猶予しています。


とあります。実際にオランダというのは、イメージ的にはセクマイ天国!みたいな雰囲気がないでもない(ただの思い込み)ですけれども、セクシュアリティを理由にしたイランからの亡命申請については、なかなかそう簡単でもないようです。イランでアフマディネジャドが大統領になったのが2005年。その後確かにオランダでは半年にわたり、同性愛者である難民の強制送還を中止していたのですが、2006年3月に移民大臣のリタ・フェルドンクが、それを撤回する方針を表明します。

このあたりの事情はPlanetOutのここHuman Rigts Watchのこの記事(わたくしだけかもしれませんが、とてもアクセスしにくいです)に書かれていますが、主な理由としてフェルドンクがあげたとされているのが、こちら。

“It appears that there are no cases of an execution on the basis of the sole fact that someone is homosexual. ... For homosexual men and women it is not totally impossible to function in society, although they should be wary of coming out of the closet too openly.”
同性愛者だという理由のみに基づいて処刑が行われたケースはないように思われる…あまりにも公然とカムアウトすることには注意が必要であるとはいえ、同性愛者が社会生活を送ることは完全に不可能ではない。


「あまりにも公然とカムアウトすることに注意が必要である」というのは、日本でもアメリカでもイギリスでも同じことで(同性愛者をターゲットにした暴力行為や日常生活における差別などはいくらでも見られるわけですから)、もちろんそれ自体が問題ではあるのですけれども、まず緊急の件として、しかしさすがにそれはレベルが違うだろう、と。

ということで、批判が集中し、2006年10月にさらに半年の猶予期間延長が決定されます。従ってこの時の猶予期限はすでに切れているのですが、その後どうなったかという肝心の点についてはちょっと見た限りではわかりませんでした。

実はこれと期を同じくして、スウェーデンでもイランへの同性愛者の強制送還が再開されているのですが、この時に法廷が根拠としたのがスウェーデンの外務省によって出されたというレポート(これ原文を探せませんでした。というか、ちょっとネットでのリサーチ能力が低すぎです、わたくし)だということなのですが、この件でネット上で見つかる記事によると、

the report also said that most gay people in Iran managed to avoid danger by living "discrete and withdrawn" lives.
(報告書は、イランの同性愛者のほとんどは「控えめに(多分discreetのスペルミスだと思うので)引きこもった」生活をすることで危険を避けることが可能だ、と述べていた)


wikipediaをざっと見てもわかるし、たとえば2005年の少年二人の処刑をめぐる議論などに明らかなように、「同性愛者であることのみを理由にした組織化された深刻な生命への危険」がイランにおいて存在しているのかどうかについては、いまだに議論が分かれるところではあるようです。(2005年の公開処刑:二人の少年が公開処刑され、彼らの罪状が同意の上での同性間性交だったというレポートがあったために、人権団体の中にはこれを同性愛者への迫害とみなして批判するものがあった。しかし、Human Rights Watchをはじめとする他の人権団体は、この処刑が同性愛を理由としたものとみなす十分な証拠がないとしている。その場合、これは死刑であり、しかも公開処刑であるという点において人権侵害であるが、同性愛者への迫害事例とはならない、ということになる。)

もちろん、ネット上に山ほど見つかる迫害の証言は言うまでもなく、イランの政府要人がまさにこの同じ処刑事件に関して「同性愛者は処刑されても仕方がない」と言っていたりすることだけを考えても、「同性愛者であることを理由にした深刻な生命への危険」があるかないかと言われたら、やっぱり「ある」と言わざるを得ないのではないかと思うわけですけれども、ここで問題になるのは、「同性愛者であること<のみ>を理由にした生命の危険」があるかないか、という点です。

この発言をレポートしたTimesonlineの記事によると

When the Britons raised the hangings of Asqari and Marhouni, the leader of the Iranian delegation, Mr Yahyavi, a member of his parliament’s energy committee, was unflinching. He “explained that according to Islam gays and lesbianism were not permitted”, the record states. “He said that if homosexual activity is in private there is no problem, but those in overt activity should be executed [he initially said tortured but changed it to executed]. He argued that homosexuality is against human nature and that humans are here to reproduce. Homosexuals do not reproduce.”(太字はtummygirlによる)


つまり、「内密に(in private)行われる同性愛行為は問題ない。しかしあからさまな同性愛行為は処刑に値する」というわけです。(あれ?どこかの国の軍隊と微妙に微妙に似ていますね)

再び、nofrillsさんのこちらに詳しいのですけれども、EUの基本権憲章によれば

Article 19  Protection in the event of removal, expulsion or extradition
1. Collective expulsions are prohibited.
2. No one may be removed, expelled or extradited to a State where there is a serious risk that he or she would be subjected to the death penalty, torture or other inhuman or degrading treatment or punishment.


第19条 退去、追放、本国送還を案件とする保護
1. 集団的追放は禁止する。
2. 何人といえども、死刑、拷問、あるいはその他の非人間的で、人間の品位を傷つける処遇ないしは刑罰に委ねられるであろう深刻な危険がある国へ退去、追放、もしくは送還されるようなことがあってはならない。

(EU基本権憲章、福田 静夫氏 訳http://www.max.hi-ho.ne.jp/nvcc/FE5.HTMより)


ということになっています。Human Rights Watchでは、このような強制送還は「拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約」(英国もオランダもスウェーデンも批准しています)に反することになる、とも指摘しています。

Article 3 (英文はこちら
1. No State Party shall expel, return ("refouler") or extradite a person to another State where there are substantial grounds for believing that he would be in danger of being subjected to torture.
2. For the purpose of determining whether there are such grounds, the competent authorities shall take into account all relevant considerations including, where applicable, the existence in the State concerned of a consistent pattern of gross, flagrant or mass violations of human rights.


第三条
1. 締約国は、いずれの者をも、その者に対する拷問が行われるおそれがあると信ずるに足りる実質的な根拠がある他の国へ追放し、送還し又は引き渡してはならない。
2. 権限のある当局は、1の根拠の有無を決定するに当たり、すべての関連する事情(該当する場合には、関係する国における一貫した形態の重大な、明らかな又は大規模な人権侵害の存在を含む。)を考慮する。


HRWの指摘する通り、この状況でイランへの強制送還は明らかにこのあたりに違反しているように思えるのですけれども、にもかかわらずそれが行われ続けているというのは、繰り返すようですが、「内密ならOKだよん。あからさまだと拷問されても処刑されても仕方ないけどね!」というロジックが使われているからではないかと思います(勿論、強制送還の理由というのは、直接にはそれこそあからさまに、難民にうようよ入ってこられても困るからね、というボーダーコントロールの問題なわけですけれども、それを多少シュガーコートする理屈がそこに見いだされているのだろう、ということです)。

イランの政府要人が「あからさまな同性愛行為は処刑に値する」と言っている。それは勿論ショッキングだ。でも、というわけです。「あからさまでなければ、生きていけるんじゃない?」

同性愛「だからといって即」迫害されるわけではない、と論じた英国Home Officeの論調。「あまりにも公然とカムアウトする危険に注意を払えば、社会生活は完全には不可能ではない」と論じたオランダの閣僚の発言。「控えめに引きこもって」いれば危険は避けられると論じた(と言われている)スウェーデンの外務省報告書。

それらの論調と「あからさまな同性愛行為は処刑に値する」という発言とを同じだと考えるとすれば、それは余りにも乱暴です。こっそりひっそりしていれば危険は避けられるよ、と論じることと、こっそりひっそりしてなければ処刑されても当然だ、ということとの間には、もちろん違いがあり、その違いに命がかけられている以上、それはとてつもなく重大な違いです。にもかかわらず、このようにして並べて見た時に、その二つの論調がその根底においてどこかでつながっていることもまた、明らかです。

前者の「発言」(ひっそりしてればどうにか生きていける)が後者の「行為」(拷問/処刑)を最終的には是認し、後者の「発言」(ひっそりしていなければ処刑=ひっそりしていれば処刑しない)が前者の「行為」(強制送還)を正当化する。そこにあるのは、互いの発言によって互いの行為を見逃しあい後押しし合う構造です。そして何よりも腹立たしくそして悲劇的なのは、その見逃し合いと後押し合いとが、特定の個人の生命や安全、あるいは基本的な安心に対する切実な脅威として集約され、具体化されているのだということです。

ある意味あれです、「同性愛者とか別にいてもかまわないよ。でもいちいちそれを主張されても違うと思う」という発言が、どれだけ危険なことになりうるかっていうお話ですわよ。あるいは、あれです、「こうすれば危険ではないよ」という発言と「こうしなければ危険な目にあっても仕方ないね」という発言とが、場合によってはどれだけ近づきうるかっていうお話ですわよ。

というわけで、イランのお話ではなく、オランダや英国のお話でもなく、わたくしにとっては微妙に日本のお話でございます。