出版差し止め

ちょっとびっくりしたニュース。リンクをたどっても詳しいことが分からないのだけれども、とりあえず載せておきます。もし何かご存知の方がいらしたら、教えていただけると嬉しいです。
簡単に言ってしまえば、アメリカのHaworth Pressから、同出版社から出ているJournal of Homosexualityスペシャル・イッシュー(特集版って言えばいいのかしら?)として出版予定だった、古代ギリシア・ローマにおける同性間の欲望と愛をテーマにした本が、出版差し止めになったと言うお話。差し止めの理由は「同性愛」ではなく、その中に、成人男性と未成年の少年との性愛を容認していると取られかねない論文が入っていると保守系サイトであるWorldNetDailyによって批判され、出版社に抗議が殺到したから、らしい。
この論文の要旨はこちらで読めるのだけれど、これを読んだ限りではわたくしはこの論文には全く興味が持てないわぁという気がするのも事実。cross-speicesデータを参照することが人間のセクシュアリティの話をするときに本当に有効なのかというあたりにわたくしはとても疑問を感じるし、古代ギリシアの様式にのっとれば成人男性と未成年の少年の関係は少年の育成にとって有益である、というのも、時代も文化も階層構造も全く違う古代ギリシアのやり方をそのまま現代社会に持ち込むこと自体に無理がありそうだと思う*1。勿論論文そのものを読んだわけではないので正確なことはいえないけれども、そもそもどうしてこんな論文が?(Jouranl of Homosexualityだからなのかしら<この雑誌への偏見。根拠はございません)と思ったりは、する。
ただ、学術論文としてのレベルの問題であるならば、最初から掲載を認めなければ良いだけの話。あるいは実際にこの論文が「古代ギリシアにならって、現代社会において成人男性と少年との性愛を復活すべきだ」と主張しているとして、その主張に雑誌の編集部として、あるいは出版社として、問題を感じるのであれば、これまた最初から掲載を認めなければ良かったのだ。この論文の著者は以前にも似たような論文(これとか、これとか、ですかね)を出したことがあるらしいので、今回採用側が著者の従来の主張を全く知らずに論文の意図を読み違えたということも考えにくいし。
いったん審査して掲載を決めた論文(というより、それが載っている本そのもの)を、保守派の圧力であっさり出版差し止めにしてしまうという出版社の決定が、わたくしにはちょっと分からない。しかもこの記事によれば、出版社側は「(WorldNetDailyに記事が掲載されてから)1日足らずで20通ほども抗議のメールが来た」ために、「(当該論文が)成人男性と未成年の少年との性愛に賛成していると解釈する人がいるという事実に基づいて」、「出版社としてはそのような(成人男性と未成年少年との性愛を承認するという)主張には全く賛同できないので」出版差し止めの決定を下したと説明しているらしい。
わけがわからないんですけれど!たかだか1日20通ですよ?ちょっとヒートアップしているブログのコメント欄につくコメント数より少ないですよ?しかも、ある論文に特定の解釈を加える「人がいる」ということと、その論文の主張がその解釈通りであるということの間には、かなりの隔絶がないかしらね?さらに言えば、ある特定の主張を気に入らない人が一定数いるとして、「その主張を気に入らない人がいる」ことが学術論文出版の基準になるって、どうなのよ?そんなことを言ったら、殆どの論文は出版できないような気がするわよ。出版社(あるいは編集者)側が、ある特定の主張を読み取ってそれには賛成できないというのならば、最初からそう言って掲載しなければ良いのに。
なんというのか、この記事だけから判断すると、出版社の腰が座らなすぎな気がしてならない。はっきり「私たちはこの論文をこう解釈して、従ってこの論文の主張には賛成できず、出版するつもりはない」とか「この論文の質(あるいは方法論でも何でもいいけれど)は満足のいくものではない」と言うのもイヤだけれども、かといって圧力を加えられたり売り上げが落ちるのもイヤで、どうにか誤魔化そう、みたいな。Haworth Pressってそれなりに良い本も出しているし(何冊も持ってるし)、なんだか残念。っていうか、出版社がここまで弱腰っていうのを見せ付けられると、なんだか怖いわ。

*1:安易に過去に戻るっていうのがとにかくキライなだけかもしれないわ。てな気もするけど