バンコクバンコク

こっちにもあげてみます。
Bnagkok2005

かなり前にここでもひそやかにしめやかに宣伝しておりました、バンコクのクィア学会*1、行ってまいりました。

当初の日程から一日ずれて、7日から9日までの三日間、みっちり学会。会場となっているホテルから日中は一歩も出ないという毎日で、「バンコクって寒いわぁ。冷房が。」みたいな日々。大学の学期中の開催ということもあって学会の前後にさりげなく観光をまぜることもできず、「バンコクに行きました」というよりは「(学会会場の)ホテルに行きました」と言った方が、絶対に正確な表現だと思います。それでも、「学会ランチが、しかも人文系(=お金が余りない)の学会のランチが、こんなに美味しくて良いのかしら?」というタイ料理三昧の毎日は、それはそれで体には嬉しい。学会自体では疲労困憊したのですが、その割にはお肌の調子が良かったのは、冷房効きすぎの室内にこもりっきりにもかかわらずお化粧のりも微妙に良かったのは、きっと、唇がしびれるようなスパイスの山のせいです。

というか食べ物はまあどうでも良くて、どうでも良い食べ物の話を最初に書いてしまうのは研究者としてどうなのかとも思うけれども、まあそれも置いておくとして、やはりアジア各地からの研究者の話を聞けたり愚痴を言い合えたりしたこと、それに何故か国内では出会う機会のなかった日本ベースの若い研究者やアクティビストの人たちに会えたことが、とても嬉しい。

とりわけ、パネルで御一緒した方やそのパートナーの方たちには、本当に良くしていただきました。ちびちび報告を書きたいと思っているのですけれど、今回の学会では、「良いこと」もたくさんあったけれども、唖然とするような問題が目の前に山積しているのもはっきりと見えて、ちょっと大変でもあったのです。そういう時に一緒に悩んだり支えたりして下さる方たちがいたことは、とても心強く、ありがたいものでした。感謝です。どなたもここをご覧になってはいないとは思いますが。というより、むしろ見ていないでね!という感じですが。

きっと「報告」にはうまくまとめこめないであろう雑感をいくつか。

学会の参加者には、学会ポスターの上部に描かれている手つなぎ人形(ってなんのことやら)と学会ロゴのプリントされた白い布のバッグが、配られた。かわいぃ。呆けていてお恥ずかしい限りだけれども、レジストレーションでいきなりこんなかわいいバッグをもらうと、和んじゃうわぁ。でも冷静に考えると、こんなところにお金を使っていて良かったのかしらね、学会。微妙に微妙です。組織委員会の方では、学生参加者への奨学金がかなり限られています!みたいなことを盛んに言っていたんだけれど、このバッグ(×600人)がなかったら、もう一人くらいは(少なくとも往復の航空運賃の一部くらいは)奨学金もらえたんじゃないのかしら。そういうことを言い出すのはつまらない人間なのかしらん、とか。

「女性」の参加者はかなり多かったのだけれども、去年ロンドンであった同じような学会と比べると、ブッチ・ダイクも少ないし、FtMっぽい人も少ない、ような気がする。統計をとったわけではないし、理由はわからないのだけれど。

ブッチ・ダイクといえば、外見だけ見てすっかりブッチ・ダイクなのだろうと信じ込んでいたJosephine Hoが結婚しているって、わたくし全く知りませんでした。学会が終わった後で話かけてくれた台湾の研究者と話をしていたら、「僕の妻のJosephine Hoがね」という話になって、「ふ〜ん」と一瞬聞き流して、思いっきり素でdouble takeをしてしまいました。びっくり。「外見」による「アイデンティティの言い当て」に異議を唱える方向での理論構築というのをやってきたはずなのに、自分がすっかり「外見」を信じきっていたことに、さらにびっくり。というか、びっくりしてる場合じゃなくて、真剣に反省です。

と書いていて、ふと思ったのだけれど、確かに「妻」と言ったような記憶があるのだけれども、Prof. YinBin NingってFtMTGなのかしら?今回の学会で、私はトランスの人をそれと認識できないということがはっきりしたので*2、もしかしたらこの人ふつうにFtMTG、あるいはそれに近いブッチの人で、普通にブッチ・ブッチなカップルだったりするのかしら。うぅ。どっちでも良いといえばどちらでも良いことではあるのだけれども。

東アジアのクィア団体、なかなか盛況な印象。これも「印象」ですが。で、私もそう感じていたことではあるのだけれども、「台湾のクィアは盛り上がっている。状況もかなり良い」的なイメージがそれなりに流通しているらしくて、台湾の人がしきりに「そんなことはない。それは政府のプロパガンダで、実際には締め付けはかなり厳しい」というようなことを言っていたのが、印象的だった。

台湾といえば、それこそJosephine Hoをはじめとする教授陣に率いられた(のかどうかわからないけれども)大学院生がかなり参加していた様子で、そういうところは、同じ研究職業界に身をおく人間としては、うらやましい。日本でもお茶大とかそういうところでは、積極的に教授連が院生を海外で修行させたりしているのかしら。いいなぁ。そういうところで大学院生活を送りたかったなあ<本当に純粋にうらやましいです。

シンガポールから、Fridaeの人がゲストスピーカーで来ていたのだけれども、クィア・アクティビズムと商業資本の結びつきについて、意図的な戦略なのかもしれないけれどそれにしても随分オプティミスティックに喋っていて、ちょっと違和感。いや、Fridaeはすごいサイトだとは思うし、商業ベースであれだけの成功を収められるというのはたいしたものであることは間違いないのだけれど、とりあえず(広告や協賛などの形で)お金を出してくれる企業は良い企業っていうのは、必ずしもいつも問題のない発想ではないのではないかしら。そんなことは分かった上で、お金はやっぱり必要だからということは確かにあるのだろうけれど。先日、すすめられてSelling Out という本を読んでそれなりに面白かっただけに、そのあたりのことをもう少し聞いてみたかった。*3

お金といえば、開催地タイのクイア団体も政治団体というより商業ベースの団体らしくて、結構お金が入るのかしら。学会にもスポンサーとして名前を連ねていたりして、そこそこに羽振りがよさそうだった。

ちなみに、タイのレズビアン団体がオーガナイズしてくれた、学会最終日のガールズ・ツアー。ホテルから1時間近くもバンに分乗して揺られていくと、そこはまるで体育館のようなヴェニューで、クラブとライブハウスと公開カラオケが一緒になったようなイベントが盛況だった。タイの物価で考えると入場料も安くはないと思うのだけれど、うわさによれば週一度くらいのペースで開かれているらしく(うわさなので未確認)、タイのびあん達が元気に集って、かなりの熱気。最初のうちはクラブではなくて、バック・バンドの生演奏によるカラオケ大会。とは言っても、飛び入りはありえないんだろうなと思うくらい皆さん割とお上手で、しかも「人気カラオケ歌手」がいるらしく、人によってはファンが舞台下からプレゼントを渡したりしていて、とても楽しそう。どうやら基本的には舞台に上がるのはtom*4で、ファンからは風船で作ったお人形だの何だのを貰い、たまにdee*5が舞台に上がると、ファンからはお花を貰う、という感じ。ちなみに、ブッチxブッチ、フェムxフェムのカップルがあるように、tom同士、dee同士のカップルらしい人たちも結構みかけた。それから、tomは(少なくとも英国の)ブッチと比べると、かなり綺麗系。英国のブッチは割りと労働者階級風の身なりになっていくことが多いような気がするのだけれど、tomはむしろアイドルっぽい。昔ロンドンでドラァグ・キング・コンテストを見たときに、唯一アイドル系というか、明らかに他の参加者とは異なる綺麗系の方向でマスキュリニティを表現しようとしていたのが、インド系の参加者だったことをちょっと思い出した。いずれにしても皆さん本当に盛り上がっていて、楽しいイベントだった。

学会中はお土産を買う時間も気力もなく、せめて帰りの空港の免税店で何か買いたいと、疲労困憊した顔とよれきった服装で免税店を覗いていたら、いかにも何も買えなさそうだと見透かされたのか、微笑みの国のかわいらしい店員さんたちが微笑みながら遠巻きにしてこちらを見ていて、近寄っても来てくれなかったのが、ちょっと悲しい。確かに私は、「フェンディのバッグってこんなに小さくて、しかも免税店なのに、こんなに高いの!!(予算の5倍くらいだったわ〜。)」などと思っていたわけで、正しい判断なんですけれどもね。しくしく。

こんな感じだろうか。どうでも良いことばかりなのだけれども、とりあえず忘れる前に書きとめておこう。

で、誰も読まないかもしれないのですが、一応「学会報告」もそのうちぼちぼちあげておきます。というか、「報告」については、とりわけ研究者業界の方がいらしたら、読んで感想などをよせていただけると嬉しい。

*1:正式名称はSexualities, Genders & Rights in Asia: 1st International Conference of Asian Queer Studies

*2:MtFTG、あるいはTSかもしれないけれど、他の人がみんなトランスの人だよって分かっているのに、私だけ素でRGだと思っていたりとか

*3:Alexandra Chasinという人が書いた本なのだが、私は、クィア・ムーブメントと資本との関係については少しずつ言及されているのを見たことがあるくらいで、まともに本を一冊読んだのはこれが初めてなので、しかもそれも流し読みみたいな感じなので、この本の議論がどの程度的を射ているのかはちょっと分からない。それなりに論は通っているのではないかとは思ったのだけれど。

*4:ブッチ系と言って良いのかしら。tomboyの略だそうです

*5:フェム系、かな?ladyから来ているそうです